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第6話 頼むのはライバル

Auteur: フクロウ
last update Date de publication: 2025-10-21 19:00:39

 結局、私は王子の要求を断り切れずにフェルセン大臣の元へと向かった。あんなにかわいくお願いされてしまえば、断ることなんてできない。私の一番の弱点は、きっと王子自身……。

 歩きながらもため息が出る。どうしたらいいのか、わからない。

 私のこの謎の記憶が正しければ、王子は明日の視察で敵に襲われることになる。それを防ぐためには、通例に従い、軍を引き連れた視察に切り替えるしかない。でも、それができない今は──。

 今からもう一度王子の説得に……? いや、王子にお願いされたら断り切れる自信がない。私が身をていして守れば──いや、私一人でどうにかできる相手ではない。

 なにか突破口は? 王子の要求を呑みつつ、ことが穏便に済むような──敵の襲来を防げる方法は。

 ダメだなにも浮かばない! 私は、どうしたらいいんだぁあああ!!!

「ど、どうかなさいましたかアールグレン様?」

「し、神官殿……」

 取り乱していたところを見られてしまった。わけのわからない状況に頭を抱えていた瞬間を……!

 姿勢を正すと、私はなにごともなかったように咳払いをしてごまかす。……神官は眉をひそめたまま私に視線を注いでいる。ごまかしきれていない。

「いや、その……ぞ、賊が」 

「賊? ああ、成人の儀に乗じて王宮に忍び込んだ賊ですね。なんでもアールグレン様がお一人でつかまえたとか」

 神官が柔和な笑顔に変わる。ごまかすことに成功したらしい。賊のことなんて悩んでいなかったけど。

「ええ、すぐに発見できて幸いでした。王子の晴れの舞台を汚すわけにはいきませんでしたので。では」 

 と、そのまま目礼をして通り過ぎようとした私を神官は引き止める。恥ずかしいから、早く行きたいのだけれど。 

「ところで、賊に一人まだ幼い女の子がいたとか。しかも手の甲に火の紋章を宿していたと聞いています」

 ああ、フリーダのことか。神官も幼い女の子に見えたということは、やっぱり、子どもに見えるのは私だけではないらしい。あいつは──いや、待って。

「かわいそうに。魔法の才があったから賊にさらわれたのでしょうね」

「神官殿! 申し訳ないですが、急用を思い出しましたので失礼します!」

「あ、アールグレン様!」

 私は急いで地下へと降りていった。他の賊とともにフリーダが捕まっている牢屋に。

 まずは現状を把握しないといけない。なぜ、私は記憶が二重にあるのか。これから起こるはずの出来事を知っているのか。それを明らかにするのが先決だ。

 だが、私に変な記憶があるなんてことを誰かに相談すれば、間違いなく変な顔をされるだろう。もしかしたら、精神に失調を来していると判断されて秘書官の任から降ろされてしまう可能性もある。

 誰にも相談できないと思っていたが、あのフリーダにならば話せるかもしれない。

『私は、フリーダ・ルフナ。王子を守る最強の紋章士になる予定よ』

 階段を降りながら嫌な記憶がよみがえり、またため息が漏れた。引き返そうか迷ってしまう。

『えっ……マリク王子、やばっ! カッコいい!』

 フリーダは王子に近づこうとする不届きものだった。

 だが、背に腹は代えられない! 王子を危険にさらすよりはマシだ!

 階段を降り終わると、慌ただしく扉を開けて名を叫ぶ。

「フリーダ! フリーダ・ルフナはいるか!?」

「……え……誰!?」

 目立つ赤い髪を二つ縛りにしたフリーダはちょこんとイスに座ると、のんきにりんごをかじっていた。牢の中ではなく、外で看守の横に座っている。つまり、捕まっていない。

「な、なぜお前は牢の外に出ているんだ!?」

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    「いやいや、久しぶりに王宮の外に出るとすげぇ人手だな。王子なんてさっきから目につくもの食べまくってるぜ」「王子は味を確かめているのだと思います。王宮で口にするものは、もう一流のシェフによって作られた料理。それも市民が食べないような高級品ばかりです。こうして市民が食べるものを自ら食することで、その質と安全を確かめているのです」 たぶん……フリーダのやつ、王子にあんな近づいて。手渡しで食べ物を…それに「あーん」まで!? 

  • 一度王子を殺した秘書官、今度こそ愛を誓います   第11話 ティナの作戦

    「なぁ、ところで──」 ディンブラ殿は耳に顔を近づけると声を潜ませて聞いてきた。「どうやって、今回のお忍び視察、王や大臣連中を説得したんだ?」「ああ、それなら。『万が一にも王子の身に危険が及ぶことがあれば、賊と賊に繋がる全ての者を殺し尽くした後《のち》に私がその首を持って償わせていただきます』、とベルテーン現国王に述べることで、無事に王子の提案した無理難題を解決することができました」 前のときと同じ手法だ。

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